村井 純子 先生

平成12年入局
慶應義塾大学先端生命科学研究所 特任准教授

人生いろいろ。整形外科医もいろいろ。

みなさま、(ほぼ)初めまして。クローズアップしていただくような人物では無いのですが、せっかくの機会なので、私が絶賛行進中の阪大整形外科の非王道コースをご紹介いたします。

私は、高校時代は勉強一筋でひ弱だったのですが、大学に入りバドミントンに目覚めて一気に体力気力根性がつきました。6年生時の医局勧誘会を巡った結果、この気力体力根性をぶつけることができる医局は整形外科だと判断し、特に迷うことなく阪大整形に入局しました。病院勤務の厳しさに打ち拉がれながら全うした3年の研修医期間は、2度と戻りたく無いですが、自分が人間として最も成長した期間でした。

大学院に行くきっかけは、あまりにも臨床がしんどかったことが一つです。しかしその一方で、日々成長中の整形外科臨床医としてのキャリアを4年間中断することへの躊躇がありました。たまたま名井陽先生に、大学院進学の意義を伺ったところ「世界に自分だけしか知らないことがあるって、素敵じゃん」とステキにお答えくださり、単純子の私は「そやなー。学会行ってもわからんことだらけだし、大学院で基礎的なことも勉強するかー」と思い、院進学を決めました。妻木範行先生のもとで勉強した大学院前半は実験そのものが楽しく、深夜に仕掛けたPCRを早朝ワクワクしながら流すような日々でしたが、後半は論文が出るのか、卒業できるのかという心配でドンヨリしていました。6年弱かけてようやく学位を取得して、基礎はもうコリゴリ、、、、と思いきや、そうはならず何故かこの時点で「もっと生命の根源を知るような研究をしたい」と思いました。6年弱をマウス相手に過ごしてしまったので、病院勤務の対人プレッシャーと、基礎研究の対自分プレッシャーを天秤にかけたときに、後者の方が「楽」と感じた気持ちも、正直なところありました。基本的に明るい引きこもりの性格なので、対人が苦手なのです。あと、留学したいという気持ちもこの時点でありました。

人生は運と縁が全てをつなぎます。たまたま、阪大医バド部OBOG会で京都大学放射線遺伝学講座の武田俊一先生に出会い、「DNA修復とがん」というテーマでポスドク生活をスタートしました。DNA修復業界は、そもそも扱う対象が分裂酵母、出芽酵母、いろいろあってようやくヒト細胞株(これが最大)の世界です。最初は知識の点で苦労しましたが、3月くらいその分野の論文を読み続ければ追いつけます。比較的若い頃は分野を変えても全然大丈夫ですよ。武田先生のおかげで、念願のアメリカ留学をボストンDana Farber Cancer Instituteというサイエンスの聖地でできました。ここは1年だけでしたが、全員がライバル、全員が将来PI(独立ポジション)を狙う、戦場のような場所で、英語、ロジック、ガツガツ力、様々鍛えられました。しかし、お恥ずかしながらこの時点ではまだボスに言われたことを粛々と真面目に実験していただけで、サイエンティストとは言えない状態でした。周りからもそう見えていたかもしれません。

研究者として目覚めたのは、NIHのDr.Yves Pommierに出会ってからです。最初の半年まったくデータが出なかったのですが、彼はその間特にプログレスを迫る訳でもなく、午後になると「tea要るか? Would you wanna have some tea?」と聞いてくるだけなのです。あまりプレッシャーを感じずに、留学時代のみに与えられる100%自分の時間を生かして、自分で計画を立てて実験結果を得て、それをtea timeにYvesと議論するという、本来は研究者として当たり前の「自分で考え自分で行動」ができるようになりました。私は「のびのびサイエンス」と呼んでいます。ただ、のびのびサイエンスをするには、独善ではいけません。知識を貯めて、それを生かしてロジカルな研究計画を立ててナンボです。なので、誰しもが明日からできるわけではなく、知識や技術が溜まるまでは、人(主に上司)からのリクエストにお応えしながらの修行期間も大事です。

写真 | 2019年夏 サイエンス総本山 NIH再訪問

研究者として生きていけるか?ここには運と実力と目利きが必要です。私は、二つの当たりを引きまして、今のところ研究者としてはイケイケ組に入ると思います。ただし、今この瞬間です。最大瞬間風速かもしれません。このイケイケが10年続くか?それは100%自分次第ですので、今後も目を光らせながら新たな生命現象を見つけていきたいと思っております。

| イケイケドンドン! Google Scholar での Junko Muraiの引用数

全員が私のようだと医局が崩壊しますが、50〜100人に1人くらいはこのように王道からズレる人がいても良いのではと思います。どの世界でも多様性は大事ですし。ただし、名医の道はあきらめてください。患者さんから絶大な信頼を得ている専門性を持った先生方は本当に素晴らしく、心から尊敬しております。

岡田新教授体制となり、阪大整形外科のアカデミズムに益々拍車がかかることは間違いありません。大学院どうかな、基礎研究ってどんな意味があるかな、そんな風に考える先生は是非ご一報ください。極端すぎますが、基礎研究の世界にずっといる元整形外科医が相談に乗りますよ。

2021年2月26日

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慶應先端研研究者紹介 http://www.iab.keio.ac.jp/research/highlight/interview/202008061402.html